事前準備が全てを決める皆さんご存知だと思いますが、「アリとキリギリス」という童話があります。
アリは冬のために、せっせと食料を夏の間に保存するけれども、キリギリスは夏の間を楽しむだけ楽しんだために、冬の食料に困るという話です。

今回は、「市場調査」をテーマにお話したいのですが、はじめにポイントをお話すると「事前の準備がすごく大切」だということです。
他にも、孫子の兵法では「虞(ぐ)を以て不虞(ふぐ)を待つ者は勝つ」という言葉があり、万全の準備を整えて、敵に対峙する必要性を説いています。

昔の人達は、生活の中でその重要性を認識し、言葉や物語として残しているわけです。しかしながら、現代では、情報が氾濫し、インターネットや書籍ですぐに情報が入手できる時代。ついつい上辺の情報だけで誤った判断をするケースが少なくないのではないでしょうか。

今回は、私が勤めていたとある飲食店を事例にして、ご紹介したいと思います。
事例は飲食店ですが、どの業種の方でも通用する内容ですので、ご覧ください。

学生街に居酒屋を立ち上げるとある飲食店A店のオーナーは、業績が好調なため、2店舗目の出店を計画しました。候補地は、複数の大学がある地方都市。街は学生で溢れ、駅からも徒歩5分程度という好立地でした。
また移転して間もない大学が多かったため、再開発の真っ只中でした。商業施設なども、まだまだこれからという感じで、FC展開している居酒屋とわずかに個人経営の飲食店がある程度でした。

このA店のオーナーは、それらの情報から「学生をターゲットにワンランク上の店にしよう」と考え、学生に受けるような店舗デザインやメニュー開発を行いました。
結果、どうだったか?

開店当初こそ、物珍しさや斬新なデザインも話題になり繁盛していましたが、2〜3ヶ月でお客様は激減。経営の危機に早くも陥ってしまったのです。
当然A店のオーナーは、悩みました。街には学生で溢れているのに、お客様が来ない。
満を持してオープンしたお店ですから、学生に受けないはずはないと。

よく調べることで、見えないものが見えてくるA店はその後、不断の改革により無事に持ち直しましたが、断片的、表面的な情報だけで店舗の経営方針を決めてしまったために、失敗をしました。
A店の事例は、実際にビジネスの現場でよく見られます。「思い込み」が原因で、よく調べることをせずに実行してしまうために、引き起こすのです。

このような失敗を回避するためには、どうすればよいでしょうか?
それが「事前の準備」であり、今回で言えば「市場調査」がそれに該当します。
もちろんビジネスに限らず、100%や絶対ということはありませんが、成功する確率を少しでも高めることができるのが、事前の準備なのです。事前の準備をしっかり行うことで、成功の確率が高まるのです。

しかし、多くの方は、こう思われるかもしれません。
「市場調査などは、大手だけができることではないか?お金がかかる」と。
そうではありません。リサーチ会社などへ依頼することは難しくても、自分自身でできることは数多くあります。そして実際に実行している方も多くいらっしゃいます。
A店のオーナーも同様に、オーナー自身が奮闘した結果、持ち直したのです。

では「市場調査」とは具体的にどのようなものでしょうか?
それは、お客様となるターゲットが、どんなものに興味を示しているかを、潜在的、顕在的に調べることを指します。つまり、お客様が考えていること、感じていることを調べることで、より支持される商品やサービスを提供することを目的にした調査なのです。
他には、マーケティング・リサーチといった言葉や意識調査、商圏調査など様々な言葉が存在しますが、ここでは、全てひっくるめて市場調査と呼ぶことにします。
厳密には各々の言葉に含まれる意味・内容が異なりますが、便宜上としてまとめます。

商圏調査 周辺地域の人口や世帯数などのデータや世帯年収、世代などの構成を元に、
商圏の特徴を明らかにする調査
満足度調査 お客様に自社商品の満足度を確認する調査
意識調査 ターゲットの潜在意識、普段考えている傾向、志向などの調査
製品テスト 新商品を開発した際などに、消費者がどのような反応をするかのテスト調査

他には、競合調査という言葉も存在します。
市場調査がお客様に向いているのに対し、ライバル企業に目を向けたのが、競合調査です。

競合調査 自社のライバルとなる企業と自社とを競争要因となる指標で比較するための調査

今回事例として出したA店は、商圏調査や意識調査を怠っていたために、失敗しました。
では、このA店が再出発するために行った調査の中身について、具体的にみてみましょう。

自分でできることを、全てやるA店は学生が来店しないことに疑問を持ち、以下のような行動を取ったのです。

  • a) 店の前を通る通行人や車の調査
  • b) 学生へのアンケート調査
  • c) 付近の都市も含めた人の動きの調査
  • d) 付近のライバル店の調査
  • e) 行政データの活用


a) 店の前を通る通行人や車の調査
店の前は2つの幹線道路を結ぶ片側1車線の道路。よく見ると車の通行量が多く、乗っているのは学生ではなく、主婦やビジネスマンなどばかり。
また徒歩で通行している人は、地方都市ということもあって少なかった。
駅前徒歩5分とはいえ、学生は歩いていなかったのです。


b) 学生へのアンケート調査
店に来店する学生のお客様にデザートもしくはドリンクを1杯無料にして、アンケート調査をお願いしてみました。ヒアリング項目は次の4つです。

◇休みの日は、どこで過ごしますか?
1.家 2.○○市(地元) 3.○○市(都市) 4.学校 5.そのほか

◇平日はどこで夕食を食べますか?
1.家 2.友人の家 3.大学 4.ファーストフード 5.居酒屋 6.地元以外の飲食店 7.それ以外

◇平日と休日の夕食の予算はどれくらいですか?
1.500円未満 2.500円〜1,000円未満 3.1,000円〜3,000円未満 4.3,000円〜5,000円未満 5.5,000円以上

◇地元で月に2回以上行く飲食店はありますか?
1.ある(a.ファーストフード b.ラーメン店 c.居酒屋 d.食堂 e.それ以外) 2.ない

結果は、「平日は家で質素、休日は都市部で奮発」「よく行くお店はラーメン店」「予算は平均3,000円」という内容でした。


c) 付近の都市も含めた人の動きの調査
A店がある地方都市から徒歩または電車で行ける近隣都市は3つ。

  • <電車で5分、徒歩15分>同じ規模の地方都市
  • <電車で15分、徒歩不可>古くからある個人経営企業が多い、同程度の規模の地方都市
  • <電車で30分、徒歩不可>政令指定都市

また広告販売代理店の営業社員からの情報で、それらの都市間の人の往来は活発で、都市部から地方都市への移動は少ないものの、地方都市から都市部への移動は多く、都市部の企業は地方都市の広告媒体にも積極的に広告をかけていたのです。


自分でできることを、全てやるd) 付近のライバル店の調査
付近に存在する飲食店のほとんど全てに、リサーチを行いました。確認したポイントは次の5点。

  • ◇お客様の層(年齢、性別、人数構成)
  • ◇お客様単価
  • ◇滞在時間
  • ◇営業時間
  • ◇メニュー内容

結果、価格帯の安い居酒屋やラーメン店などには、学生の姿も見受けられたものの、土日には家族連れや社会人のカップルの来店が多く、小さい子供もよく見られたのです。メニューも学生が好みそうなものよりは、大人を対象にしたメニューを持つ店が多かったことに、A店のオーナーは驚きました。


e) 行政データを活用
さらにA店は、お店がある県、市の「統計年鑑」などをインターネットで調べ、人口の移動状況や人口構成比率、子供の数、世帯年収、産業の発展度合いなどを調べました。
※インターネットで「○○県 統計年鑑」と調べると上位に表示されます。

するとある事が分かりました。A店がある都市は、他の都市と比較して若い世代の家族の転入がここ数年で伸びており、事業所数も合わせて上昇傾向にあった。Dの調査で子供の姿をよく見かけたのは、偶然ではなく実際に多い地域だからだったのです。


自分でできることを、全てやる A店はこれらの調査結果から、ターゲットを学生から地元の主婦層(特に小さい子供のいる主婦)へと変え、メニュー内容や営業時間、什器、接客内容、BGM、広告媒体、など変えられるものは、全て変えたのです。
すると少しずつですが、地元の主婦の人気を集めることとなり、業績も回復しました。
とあるお客様からは、こんな言葉をいただきました。

「開店当時から気になっていたけれど、店の雰囲気から学生向けであることを感じ、残念に思っていた。私たちが来れるお店になって大変うれしい。」

やはり、事前の準備が大切ということです。

実際に調査を行う
満足度調査
お客様が自社商品や自社イメージをどのように捉えているかを調べる調査。 改善点やお客様のさらなるニーズの発掘が目的
【方法】訪問、郵送、インターネットなどで、質問表に記入してもらう方法が一般的
商圏調査
周辺地域の状況を把握するための調査。ターゲティングや価格設定、コンセプト設計などの策定が主な目的
【方法】行政データをインターネットで調査可能
意識調査
対象となるターゲット層が、どのような思考の特徴があるかを理解する為の調査
潜在的な意識、思考を理解し、ヒットの確率を高めることが主な目的
【方法】訪問調査やグループインタビューなどで、実際に対面でヒアリングする方法が一般的
製品テスト調査
既存顧客やターゲットとなる顧客層に、新商品の感想や使い勝手などをみてもらう調査。
本格的に販売した時に売れるかどうかを判断することが主な目的
【方法】実際に製品を使用してもらう
既にあるデータの活用
行政データ
◇総務省統計局
http://www.stat.go.jp/
◇経済産業省 統計ページ
http://www.meti.go.jp/statistics/index.html
◇各種白書情報
http://www.kantei.go.jp/jp/hakusyo/
◇中小企業庁
http://www.chusho.meti.go.jp/
民間企業データ
シンクタンクなどの民間会社でも、様々な調査結果をインターネットで公表しているケースがあります。
※インターネットで「調査結果 ○○」など、欲しいキーワードを複合的に組み合わせて検索すると、見つかる可能性があります。
自社保有データ
自社で保有されているお客様のこれまでの購入履歴や購入頻度、お客様数、継続取引年数、満足度など自社で蓄積された数値的なデータ全て